「うちは大した財産がないから遺言書なんていらない」は間違いです
良くお聴きする言葉です。
昔からテレビなどで、資産家の当主の遺言の内容をめぐるドラマがあるのが影響しているのでしょうか?「遺言書を作るのは金持ちだけ」というイメージが世間にはあるようです。
確かに大きなお屋敷みたいな邸宅や広大な土地、都市圏にいくつもビルを所有しているような資産家の方は、絶対に遺言書を作っておくべきでしょう
しかし、私がここで申し上げたいのは「お金持ちもそうだが、あなたも遺言書を作る必要があります」ということです
多くの方の財産は、お住いの土地と家と貯金や有価証券(株券)かと思います
貯金や株は金額の多少もあるので、遺族にどう分けてもらっても構わないという事もあるでしょうが、土地と家はしっかり考える必要があります
特に家は物理的に半分にしたり3分の1にしたりして遺族で分けることはできません(共有登記にするという考えもありますが、これはこれで後々大きなトラブルになりかねません)
誰か一人に家を相続させて残りの遺族に現金などで補うとか、家を売ってそのお金を均等に分けるとか何かの指示がないと遺族各々の思いがぶつかり合って争いになってしまいます
自分が亡くなった後も仲良くしてほしい
そんな思いを実現できるのが遺言書です
遺言書を作る人が年々増えています
日本公証人連合会ホームページより、公正証書遺言の年別件数です
年 | 件数 |
平成20年 | 76,436件 |
平成21年 | 77,878件 |
平成22年 | 81,984件 |
平成23年 | 78,754件 |
平成24年 | 88,156件 |
平成25年 | 96,020件 |
平成26年 | 104,490件 |
平成27年 | 110,778件 |
平成28年 | 105,350件 |
平成23年と平成28年は前年に比べて件数は下がっていますが、それぞれ東日本大震災、熊本地震の影響によるものと思われます。平成24年は飛躍的に件数が伸びています。これは「まだ大丈夫」から「いつ何があるか分からない」という意識の変化が数字に表れていると思われます
備える方はすでに備えておられます
遺言書とは何でしょうか?
ご自身がお亡くなりになった後、築いてこられた財産の分け方や処分の方法について、ご自身の意思に法的な力を与えることができる大切な書類です
遺言書があれば、お亡くなりになった後の相続財産の処理が簡単になります
また、ご家族に対してのメッセージを残すこともできます
ただし、遺言書は、ご本人の正常な意思判断の下で作られることが条件となっています。
痴呆症などで、正常な意思判断ができない状態になってしまいますと、その状態で作った遺言書は無効となってしまいます
心身ともに健康な状態のときに遺言書を作っておく必要があります
なぜ遺言書を作った方が良いのでしょうか?
1)残された遺族で遺産の分け方を決めます。しかし・・・
もし遺言書がないままお亡くなりになった場合、亡くなった方の財産は、残された相続人(配偶者や子ども、兄弟姉妹)の間で「何を」「誰に」「どれだけ」分けるのかを話し合います(遺産分割協議をします)が、よほど仲が良くない場合、ここでもめてしまいます。世の中で遺産に関するトラブルはが多いのはここです。「家はいらない。現金が欲しい」など、互いにご自分の希望を通すことでぶつかり合います。特に、仲の良かった兄弟ほど分割の時に揉める傾向にあります
法定相続分として、配偶者(夫や妻)に1/2、残りの1/2を子供の数で分けることもできますが、財産が土地と建物だけの場合は物理的に分けることができませんので、やはり話し合いによって相続分をどうするのか決めることとなります
どうしても話し合いがつかなければ家庭裁判所に調停を申し出ます。調停でも話しつかなければ審判で決められてしまいます。どちらの方法も、双方にわだかまりが残る上、互いに納得できる分割にはならないのが現状です
2)相続の手続きに時間がかかります
ご遺族が法務局で土地・建物の登記の変更をするときや亡くなった方の銀行口座を遺族の名義に変更する手続きをするときに遺産分割協議書をつくったり、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本や住民票などを集めて提出しなければなりません。戸籍を集めるのにも役所は平日しか開いていないので遺産を相続する方は仕事を抜け出して集めることになりますが、慣れないことなので1回で終わらせることは難しく、何度も役所に足を運ぶことになります。もちろんその分時間も日にちも掛かることになります
特に銀行口座の名義変更は各銀行によって必要な書類が違う上に、提出した戸籍などを審査して間違いなく遺族であるかの確認を厳重に行います。手続き完了までの時間については銀行により様々ですが短いところで数時間、長いところですと1週間から10日ほど掛かります。それだけご遺族にとっては負担となります
遺言書でできること
1)遺言書を作る人が希望する財産の分け方を指定できる
ご自身が「家と土地のすべてを妻(夫)にあげる」「銀行の預金は長男にあげる」など、法定相続分とは違った分け方を指定することができます
「この財産は〇〇にあげたくない」という思いも実現できます
☆大切なこと
「誰に」「何を」「どれだけ」と、ハッキリとお決めになることが大切です
2)「お世話になったあの人に」財産を分けることができる
普通はご自身がお亡くなりになったことをきっかけとして、子供・親・兄弟などの法定相続人しか財産を受け継げませんが、例えば、生前とてもお世話になった方に感謝の意味で財産を分けるよう指定することができます
相続人以外に財産を受ける人を「受遺者」(じゅいしゃ)といいます
3)遺言の内容を実際に行ってくれる人を指定できる
相続人を代表して、遺言書に書いた内容を実際に行ってくれる人を指定できます。絶対に指定しなければならないわけではありませんが、指定していると、その指定された方は遺族を代表して登記の変更や銀行口座の変更などの相続手続きを行うので、複数の人がいろいろな手続きをするよりもスムーズです
遺言の内容を実行してくれる方を遺言執行者(いごんしっこうしゃ)といいます
4)お墓や仏壇を引き受けたり法事などを執り行ってくれる方を指定できます
祭祀主催者(さいししゅさいしゃ)といいます
先祖からのお墓やお仏壇を引き続いて面倒を見たり、法事など親族が集まる法要の段取りを決めて行ってくれる人です。相続人でもいいですし、それ以外の誰を指定してもかまいませんし、指定しなくてもかまいませんが、やはり先祖や先にお亡くなりになった配偶者が眠るお墓などは気になってしまうものです。
5)遺族に対する最後のメッセージを残すことができます
法的な効果はありませんが、遺言書の最後に、「どんな思いで遺言書を残したのか」や、ご家族への思いなど、自由にメッセージとして綴ることができます。これを付言(ふげん)といいます
例:「私が亡くなった後も兄弟力あわせてお母さんを見守ってあげてください。家族みんなには大変感謝しています。ありがとう」
「遺言書を作ろうかな・・・。でも自分の資産を人に知られるのは・・・」
遺言書の相談・作成については当事務所でお手伝いをさせて頂いています
その際、確かにご依頼主様の資産について調べる過程で知ってしまう情報もありますが、行政書士には「守秘義務」がありますので、他人に情報を漏らすことは一切ありませんのでご安心ください
また、依頼主様がご家族にも知られたくない場合も多々あります。その時は連絡手段や打ち合わせ場所についてもしっかりと配慮させて頂きます